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レビュー『NightSky』

Posted on 2012年3月26日月曜日 | No Comments

ずいぶんと前に書いた『NightSky』のレビューを発掘したので、手を加えて掲載することにする。メカニックに雰囲気、レベルデザインと個人的にかなり好きなゲーム。

関連記事:
日本語化『NightSky』
http://nydgamer.blogspot.jp/2012/04/nightsky.html

概要

■ジャンル 2Dアクション
■開発 Nicalis
■パブリッシャ Nicalis
■プラットフォーム Win / Linux
■リリース日 2011年3月2日
■価格 $10.00(Steamは$9.99)
■入手経路 公式サイト、Steam、Desura、Fastspring
■公式サイト
http://www.nicalis.com/nightsky/
■プレイ時間 6~9時間程度。Alternative Modeもクリア済み

※この記事で使用されている写真は『NightSky HD』のものです。記事内容自体は『NightSky』でのゲームプレイを元にしています

開発はパブリッシャも務めたNicalisだが、その中心となっているのはスウェーデンのデベロッパNifflas。Nifflasはインディーズゲーム開発者Nicklas Nygren氏のハンドルネーム*1である。ゲーム開始時に「A Nicklas Nygren Game」と表示されるようにデザインコンセプト、プログラミングなどは彼が担当している。

どうでもいいが、Nicklas Nygren氏は私と同い年。

主な受賞歴はIGF 2011におけるExcellence in Audio部門ノミネート。部門大賞の受賞(winner)ではなく、選外佳作(honorable mention)である*2

入手経路はSteamが一般的だろう。Indie RoyaleのDifficult 2nd Bundleに収録されたほか、The Humble Indie Bundle #4にHD版が収録された経緯もあるため、今後のThe Humble Indie Bundleにボーナスコンテンツとして改めて収録される可能性が高い(The Humble Indie Bundleは過去のバンドルコンテンツをボーナスとして収録することが多い)。

Wiiウェアとしても配信されている。ただし、日本での配信は行われていないようだ。

*1 ソースはWikipedia
英語版Wikipedia - Nicklas Nygren
http://en.wikipedia.org/wiki/Nicklas_Nygren
*2 IGF公式サイト - 2011 Independent Games Festival Winners:
http://www.igf.com/2011finalistswinners.html

私のプレイ時間は通常難易度に加え、高難易度プレイ分も加算されているため(さらに日本語化作成の時間も含む)、およそ2周分であることも念のため付け加えておく。1周はだいたい3~4時間程度だろう。

1ステージは13のレベルで構成され、全部で10のステージが存在する(最後のステージはエンディング後のボーナスステージ扱い)。

かの『Braid』よろしく、特定のレベルにはSecret Starが隠されており、ボーナスステージは集めたSecret Starに応じて段階的にレベルが解禁するようになっている。『Braid』ほどではないが、Secret Starをノーヒントですべて集めるのはかなり難しいと思う。

ゲーム内容

物語は少年が海岸で不思議な球体を拾うところから始まる。その夜、球体を持ち帰った少年が不思議な夢を見て、その夢の内容がゲームとなっている。

ゲーム自体は不思議な球体を転がして、ステージの右端を目指す極めてシンプルな2Dアクションゲームだ。球体はその場で自発的にジャンプすることはできず、高所にいったり、谷を飛び越えるためには上り坂を転がって飛び上がらなければならない。

その代わり、一部のレベルでは以下のような特殊な力を使用できる。
  1. 球体の高速回転
      素早く移動したり、上り坂を使ったジャンプの飛距離を伸ばしたりする
  2. 球体の低速回転
      下り坂を転がり落ちるのを防ぐほか、細かな移動が可能になる
  3. 重力の反転
      ステージの重力を反転させる
  4. 設置物の起動
      大砲から弾を撃ちだす、フリッパーを動かすなど、ステージ上の設置物を操作する
これらの力はレベルごとに使えるものが定められており、どのレベルでも自由に使えるというわけではない。また左右への移動ができず力だけを駆使して進むレベルや、力が常時アクティブになっているレベルも存在する
球体自身に物理演算が働くので、急な下り坂では勝手に転がりだしてしまう
急な下り坂では低速回転を使おう
フリッパーを使えるレベルでは、球体を操作することができない
球体を弾いてゴールを目指せ 
『NightSky』を構成している素材はシンプルで、それらが無駄なくスッキリとまとめられており、とても好感が持てる。以下で少しだけ掘り下げてみたいと思う。

物理演算を駆使した現代風パズル

いまや物理演算を用いたパズルや謎解きと言えば、AAAクラスのタイトルを挙げるまでもなく広く導
入されている。『NightSky』も例に漏れず、物理演算を使って進路を切り開くシーンがステージ中に取り入れられている。
ステージ上には球体をぶつけることで動くオブジェクトもある
例えば、このシーンでは箱を押して穴に落とし、道を作らなければならない 
ここも先のシーンと同様に穴をオブジェクトで塞がなければ進めない
鎖につながれた大きな球は動くオブジェクトというのがヒント
プレイヤーが操作するのが無生物(と言っていいのかどうかわからんが)であるにも関わらず、乗り物が登場するのも特徴だ。その数は10を超え、いずれもちゃんと異なる挙動をとるようになっている。
スタンダードな車型の乗り物。車輪へと球体の回転する力が加わって動力となる 
バルーンのついた《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》のように浮力のある乗り物も 
球体は基本的に左右に転がることしかできないが、転がる力がそれらしく乗り物に伝わり、いろいろな動きをするのは驚きもあったりして見ていて楽しい。

ステージの解法は基本的にひとつ。もちろん各種特殊な力をちゃんと使わないとステージをクリアすることは不可能で、「どうしたものか」と頭を悩ませながらも、的確な操作をする必要がある。デフォルトの難易度ではさしてシビアな操作は求めらず、パズル要素も比較的素直なものが多い一方で、ハードモードにあたるAlternative Modeではより繊細な操作と難しいパズルが待っている。

上質な素材をしっかりと味わえる優れたレベルデザイン

1ステージはいくつかのレベルに別れており、失敗しなければ1レベル30秒もあれば終わってしまうような長さである。ゲームの進行状況もレベル単位で記録される。このため、リトライ時のストレスも非常に小さく、短い時間でもすぐにプレイに取りかかることができる。

全体的な難易度調整も良好だ。ステージが進むにつれてプレイヤーに求められるスキルがあがっていき、新たな要素が現れれば簡単なチュートリアルレベルを挟むという、教科書通りの難易度設定で非常にプレイしやすい。

そして個人的に高く評価しているのがレベル構成だ。

1レベルはおよそ2~3画面分で構成される。この構成が実にうまい。基本的なレベル構成は以下のようになる。
  1. 低難易度のシーン
  2. 高難易度のシーン
  3. 移動だけのシーン
最初に1で簡単な課題を提示することで、2にステップアップするための準備をさせる。そして2こそが開発者の提示する真の課題となるわけだ。これはほぼすべてのゲームに当てはまるだろう。

『NightSky』はここで一工夫凝らし、低難易度のシーンでは極力簡単な操作で突破できるようにしてあるのがポイントだ。

低難易度のシーンを突破して、高難易度のシーンに繰り返し挑戦するようになると、プレイヤーは次第に簡単な部分に飽きを感じるようになる。この飽きを緩和するため、『NightSky』では簡単なシーンではタイミングをとらなければならないような部分を減らし(あるいは単純化し)、少ない操作で本丸となる高難易度の場面に到達できるようにしてあるのだ。

リトライ速度、チェックポイント感覚のバランスもさることながら、練習や準備期間にあたる低難易度の場面での負担を軽減したレベルデザインは素晴らしいの一言につきよう。難易度をバランスよく配置するのはレベルデザインの基本ではあるが、本作のそれはかなり練られているな、という印象だ。

3として挙げた移動だけの場面はプレイヤーが一息つく時間を与えてくれるもので、『NightSky』の幻想的な世界観に浸ることができる。張り詰めたプレイの連続にさせない気の効かせ方が、なかなかどうしてうまく機能している。
移動だけで終わってしまうシーンの一例
ここに到達すると背景のロケットが飛び立つ 
ほとんどのレベルはこれらの3つの要素が組み合わされて構築されており、細部からこだわりが感じられる。なお、難易度の上昇するAlternative Modeにおいても優れたレベルデザインは健在である。

印象的なビジュアルと、耳障りのいいサウンドまわり

影絵のような独特の雰囲気を持ったビジュアルも味があってよい。
古代遺跡を彷彿とさせる石造りのステージ、Old Ruins 
木々が鬱蒼と生い茂るステージ、Murkey Depths 
モノトーンで描かれる影絵のようなビジュアルアートと言えば『LIMBO』が代表だろう。ほかにもIGF絡みで私が覚えているものだけでも『e7』、『One and One Story 』、『Amphora』 、『Continuity』などがあり、インディーズゲーム界隈では一般的に見られる手法のひとつと言ってもいいだろう。

比較対象として挙げられる『LIMBO』と、『NightSky』との違いは以下の3点。

  • ほぼすべてがモノトーンな『LIMBO』に対し、『NightSky』は背景に淡色が多く用いられている
  • 靄のかかったような風合いの『LIMBO』に対し、『NightSky』では線がはっきりと描かれている
  • 全体的に薄暗い『LIMBO』に対し、『NightSky』は全体的に仄明るい

互いの雰囲気は微妙に異なるが、どちらも想像力をかきたてるようなビジュアルアートであるというのは共通だ。
『LIMBO』は死後の世界といった趣だったが、『NightSky』は夢のワンシーンといった印象
ビジュアルのみならず、音響も幻想的な世界観の構築に一役買っている。IGF 2011 Excellence in Audio部門ファイナリストは伊達ではない。

幻想的な世界観にとてもマッチしているストリングスのBGMは、楽曲自体の主張が激しいわけではないのに、印象に残るものとなっている。本作のBGMの作曲はChris Schlarbというジャズギタリストが担当したようで、ゲーム畑の人ではないようだ。なお、本作のサウンドトラックは彼のサイトから$5以上で購入が可能*3

BGMと一緒にさりげなく使われている雨音や風音も心地よく、地味ながらいい仕事をしている。

SEもBGMに負けず劣らずの品質。球体が壁にぶつかったときの音や高所から落下して床に当たったときの音など、素材を想起させるような音がしかるべきタイミングで鳴り、アクションの気持ちよさにつながっている。

*3 Chris Schlarb公式サイト - アルバム『NightSky』
http://schlarb.bandcamp.com/album/nightsky-soundtrack

その他

本作は解像度が低く、フルスクリーン表示にした場合でも余白部分ができてしまうのが難点。

序文で述べたようにHD版が存在しているので、そちらでプレイすればこの問題は解消する。しかしながら、このHD版の入手方法はThe Humble Indie Bundle #4だけと限られているのが悩ましいところだ。

そもそもThe Humble Indie Bundle #4に収録されていたHD版はベータ版なので、いずれリリースされるのだと思うが、いまのところ音沙汰はない。

HD版ならではの追加要素はないとはいえ、フルスクリーンのほうがその世界観を堪能できるのでHD版のほうがオススメ。ちなみに両タイトルのセーブデータは互換性がある。

すごく余談。Steamではジャンル分けが「ストラテジー」、「独立系開発会社」、「カジュアル」となっている。どう考えてもストラテジーは誤り。ストアページでジャンルで探そうとしても弾かれるのでタイトルで検索すること。

総括

モノトーンのシルエットと、上質なサウンドとが形作る幻想的な世界は味わい深く、その世界観をプレイヤーの心に強く焼きつけることに成功している。

さらに『NightSky』は世界観だけの雰囲気ゲーではなく、しっかりと練られたレベルデザインを施し、ゲームプレイを本質的に魅力のあるものとした。今となっては物理パズルも特殊な力の行使もすっかり手垢にまみれてしまった感があるが、優れたレベルデザインと手触りのよいアクションがそれらを感じさせず、シンプルでいて上質な2Dアクションゲームを完成させている。

2Dアクションゲームが好きで、『NightSky』の持つ雰囲気が好きならマストプレイなのは言わずもがな、どちらか片方に該当するだけでも『NightSky』は十分にプレイする価値を持っている。

夢のごとき心地良い体験をゲームでするなら、『NightSky』は外してはならないタイトルだ。

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